· 

あの魚

ガイドの毎日で、自分の釣りはなかなかできないシーズン真っ最中ですが、唯一できるのがリサーチを兼ねての釣り。リサーチはもっぱら忘れられた区間や危険を伴う場所。そんな場所でしか自分の釣りができないのですが、それもまたです。

 

先月、釣りの帰りに、忘れていた区間を思い出し気になっていました。下流から釣り上がるとゴルジェに行く手を阻まれて、川通しができなくなり、高巻きするにも斜面がきつすぎて、その上を釣ったことがない場所。そんな場所こそ、フロンティア精神は刺激され、チャレンジしたくなってみたくなるのは、まだまだ若いんです。

 

そんな気なる区間に、足を踏み入れたのは、先月8月でした。沢から入渓しようと思うと、沢も滝で本流にでることができず、笹薮に入ると背丈ほどのしかも超蜜な笹薮に跳ね返されるように、進む。ヒグマにばったり出会うかもしれないし、大木の根っこにススメバチの巣があるかもしれない。初めての場所は、その先どうなるかわからないので、緊張します。永遠の藪漕ぎののち、なんとか川にでるとまだまだ谷底を流れ、このゴルジェは降りることが不可能。

 

それでも、上流へ向かって藪を漕いて、岩盤に張り付きながら、降りることができた川は、まさに大物の匂いがプンプン。でっかいドライフライを結び、ワクワクしながら釣り始める。そんな妄想は1時間も魚の反応がないと、いつしか消えるのが普通。

 

結局、ゴルジェ区間を2キロほど釣り上がり、水が少なければ川通しで歩けることは確認し、深みは多く良さげなポイントは連続するものの、小さなニジマスばかりということがわかって終了。ただ、1匹だけ、超でっかい魚がいたのです。

 

岩盤の上から、投げたフライに水中から浮き上がってきた魚と目が合い。再び投げたフライをひったくるように飛び出して、そのまま上流に向かって突っ走り、岩盤の上を飛ぶように追いかける私。重たい流れをものともせず瀬を登る魚。かと思うと、一気に下流へ向きを変え、今度は下流の瀬に向かって突進。岩盤にフライラインを擦られながら、それをかわしながらのファイト、ティペットは3エックスなので安心なのですが、水の重さと魚の強さと足場の悪さでヒヤヒヤ。魚も止まり、これで優位に立てると思った瞬間フッっと軽くなりました。何がおきたかと思うと、フックのアイのワイヤーが切れていました。ワイヤーは引っ張りには強いのですが、折れ曲がるという弱点がでてしまった様子。

 

ひさびさの、ぶん殴られるような暴力的ファイトに目がさめるようで、このゴルジェ区間もなかなかチャレンジさを感じたリサーチに終わりました。そして、昨日。あの魚がまだいるか、行ってきました。

 

2度目なので、川に降りるルートはかなり効率よくなり、それでも挑戦的なアクセスと水量は、緊張します。岩盤の割れ目からは所狭しとダイモンジソウが咲き乱れ、夏の終わりの線香花火を感じさせます。逆光気味の光にも秋らしさを感じます。

久しぶりの一人だけの川歩きなので、秋の気配が身にしみて、花を撮ったり、大きなミズナラの周りをグルグル回ったり、キノコを採って、また河原で休んで。そして、相変わらずよくこんなでっかいフライを食えると思うような小さなニジマスが飛び出してきて。いい川は歩いていても休んでもしみじみします。そして辿りついた因縁のプール。

前回の教訓を整理して、ティペットの結び目。フライのチェック。全てよし。(なんか、ゲストの気持ちがわかるような気がします)。あの魚出るか、

 

岩盤のキワ、流心、流れ込み。慎重に、撫でるように流しましたが、結局。

 

なんにも出ませんでした。

 

だけど、この緊張感って、釣りに大切ですね。オシロイシメジが出てました。

さて、9月中盤戦。ガイドに集中します。