思い返せば、
昨年の69歳のバースデー
そして、今年の春の朱鞠内湖での挑戦
昨年2020年、68歳の最後の日に生まれて初めてフライロッドというものを手にし、その次の日69歳の誕生日に、音更川でニジマスやヤマメを釣り、ワインで乾杯したのが昨年の話。そして今年はイトウに挑戦。8番ロッドのシングルハンド、5月の朱鞠内湖では6日間イトウにチャレンジするも、惜しいところはあったものの、結局イトウを釣り上げることができずに終わった。そして、、、
なんと、11月の難しいという秋のイトウ。見事なイトウを釣り上げた。
11月のイトウ釣りは、春のイトウ釣りと違い、ワカサギやウグイの群れがどこにいるのか特定することが難しく、イトウがどこに潜んでいるかを読むこともとても難しい。実績や勘を頼りに地形を読みながら探っていくしかない、ブラインドの釣りになる秋から初冬のイトウ釣り。ひたすらキャスティングをしなければいけない沈黙の釣りだけど、釣れるイトウは春の産卵後のイトウと違い、冬に向けて体力を回復し、透き通るような銀ピカのパワフルなコンディションがイトウ本来の美しさ、寒さが厳しくなる季節ほど、体の芯から震えるような感動があるのです。
そんな難しい季節だけど、天気が良ければまだまだ釣りができるのが11月の気候、イトウを狙っているとアメマスが飽きない程度に釣れるので、アメマスでも釣りながらキャスティングが上手くなれば「よし」と思いながら、お誘いした。
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新規導入したボートの初めてのお客さんがこの方になった。ボートの安定性は抜群で腰を支えるリーンバーがあるおかげで70歳の体力でも、立ってロッドを振ることになんの心配もなく、投げては引いて、リトリーブは最後までしっかりと続ける。
キャスティングは、昨年フライを始めたばかりなだけに、フライが飛ぶ距離は5mしか飛ばない。それでも、ボートを静かに音を立てずに、操船し、岸際を手返しよく探っていけば、必ずチャンスがあると信じて続けた。
1日目は、アメマスがボートの近くまでフライを追いかけてくるシーンがあったものの何も釣れなかった。それでも、1日釣りをやめずに続けることができたので、「釣れるかも」と、ほんの少しだけ可能性を感じた。
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湖畔にあるホテルは、釣り人には贅沢すぎるようなしっかりとしたホテルで、ここに男2人で泊まると、「どういう関係?」と思われるのでは?と思うようなセレブ勘満点の素敵なホテル。
朝食の窓から湖の眺め、カラマツがまだ少し黄色い葉を残し、遠くにキラキラと光る水面が見える。「あと1時間後にはあの世界に行くのか〜」とちょっと憂鬱になるような、別世界、別空間がホテルのレストラン。
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2日目は、釣りを初めてすぐにアメマスが釣れた。55cmのアメマスで、イトウではなかったけれど、なによりも魚が釣れたことが嬉しかった。「これで、夕食のワインが楽しみですね」と話ていた。
昼を過ぎて、岸際の茂み、アシが沈んだ周りを、相変わらず5mのキャスティングで手返しよく探っていると、「吉原さん、きました!」と叫んだ。
見ると、大きく竿が周り、グングンと引かれ、竿が動いているので、ほんとに魚で、根掛かりではなかった。そして、水中で光った銀ピカの魚体でイトウだと確信した。(あの瞬間は、鮮明に思い浮かびます)
イトウはもちろん、フライロッドに大きな魚が竿に掛かったのも初めてで、掛かった後にどうしたらいいのか、魚とのやりとり、ファイトの仕方も全く分からず、私も説明していなかったので、
「とにかく、糸をたぐって、たぐって、竿が曲がった状態をキープしてください」と、声を掛ける。
マイナス2エックスのリーダー直結なので、まず切れる心配はない、リールファイトや魚のやりとりを説明する余裕も、ファイト中頭が真っ白なのはわかっているので、説明しても理解できるわけもなく、とにかく糸は出さない。「頑張れ!」だけ。という、本当にガイドなのか?というアドバイズ。
そんなことだから、竿は思いっきり根元から曲がり、水中に竿先が突き刺さり、ものすごい力の引きを最大の力で抑えて、力んで、今にも竿が折れそうで、その一瞬の格闘が、イトウもすごいし、70歳の気迫もすごいし、本当にそんな光景を目の前で見ていることだけでも、素晴らしかった。
途中、あまりに竿が曲がり、強い引きに、
「吉原さん、糸を出してもいいですか!」と、言われたけど、何も言い返さない私だった。
一瞬沈んだヤナギに糸が巻いて、引っ張れなくなってやばいかもとひやっとした。最後は、さすがマイナス2Xのリーダー直結、そして70歳の気迫に負けたイトウが水面に浮き上がった。さすがにファイト中の写真は撮らず、ボートの操船とネットに集中した。
初めて抱えるイトウが、そしてフライフィッシングで初めて釣ったイトウ。何よりも69歳からの挑戦で70歳での偉業!お見事でした。
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イトウという魚は、本当にすごい魚だと、つくづく思った。
人を挑戦させるし、人を若返らせるし、自然と一体化したような気にさせる。
昨年フライを初めて、今年5月に初めてイトウ釣りにチャレンジし、キャスティングが5mしか飛ばなくても挑戦しずづけること、可能性がある限り、し続けた結果の結果だった。天気に恵まれた11月25日だった。
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本当に素晴らしい挑戦、チャレンジを見させてもらいました。
最高に贅沢な時間でした。
ありがとうございました。
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